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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)11005号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二五五万円及びこれに対する昭和六二年四月二五日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、不動産売買の仲介等を業とする株式会社である。

2  被告は原告の仲介に基づき、昭和六二年三月五日、訴外江中八郎(以下「江中」という。)に対し、別紙物件目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)を売買代金八三〇〇万円で売り渡した(以下「本件契約」という。)。

3  被告は原告に対し、昭和六二年三月五日、本件契約の仲介手数料として金二五五万円を、同年四月二四日に支払うことを約した。

4  よって、原告は被告に対し、本件土地の仲介契約に基づき、二五五万円及び履行期の翌日である昭和六二年四月二五日から支払い済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因はすべて認める。

三  抗弁

本件契約は、以下に述べるとおり、原告により、詐欺的事情の下で、被告の損害のもとに原告側の不当な利益を上げる目的で強引に締結させられ、その結果被告は少なからぬ損害を被っているものであり、それにもかかわらず原告が仲介手数料の請求をすることは、信義則に反する権利の濫用であって、許されない。

1  原告の親会社である訴外殖産住宅相互株式会社(以下、「殖産住宅」という。)の従業員である高橋洋(以下、「高橋」という。)、戸塚保男(以下、「戸塚」という。)及び原告会社池袋支店の従業員である堀口厚生(以下、「堀口」という。)らは、原告の仲介により被告所有の本件土地を時価より安く売却させ、これを世話した買主と殖産住宅が建築請負契約を締結することにより、自らの営業成績を上げるとともに殖産住宅及び原告の利益を図ろうと考え、昭和六二年一月三一日ころから、本件土地の売却に関して被告と交渉を始めた。

2  被告には当初本件土地を売却する意思がなかったにもかかわらず、高橋、戸塚、堀口らは、繰り返し被告宅を訪れたり、時には深夜に至るまで被告宅に居座って執拗に説得を繰り返す等し、本件土地の取引相場価格をせいぜい一坪当たり金八〇万円であると告げて、同年三月一日ころ、強引に本件土地の坪単価金九〇万円による売却の仲介を被告に承諾させた。

3  原告は本件契約締結に際して、仲介業者として果たすべき調査業務を怠り、十分な調査もせぬままに、本件土地の取引相場価格を、せいぜい一坪当たり金八〇万円であると被告に信じさせて、売買代金額が一坪当たり金九〇万円の割合による本件契約の締結を強行した。

4  しかし、現実には本件土地の昭和六二年三月五日頃の相当価格は一坪当たり金一五〇万円から一八〇万円前後であった。

5  被告は本件土地を適正な価格で売却できなかったために生じた損害を多少なりとも埋める目的で、原告の仲介による本件契約を解約するために、解約違約金として金一〇〇〇万円の出捐を余儀なくされた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実については、1のうち、高橋、戸塚及び堀口が本件土地売却の件で被告宅を何度か訪れたことがある点、及び2のうち、原告が本件土地の取引相場価格を一坪当たり金八〇万円である旨被告に告げた点を認めるが、その余は否認する。

不動産のように、基準となる価格が不明瞭なものについては、具体的売買価格は売主と買主の双方の要求度合い等により決定されるものであり、被告は、殖産住宅に請け負わせて建築した住宅の請負代金等の必要資金を捻出するため、自ら経験的知識及び調査並びに原告による本件土地の価格の調査結果等をもとに総合的に判断し、売買価格についても納得したうえで本件契約を締結したものである。

また、原告は本件契約締結に及んで、事前に、「不動産情報」、「ネットワーク」等の業者専用の不動産情報誌等を十分に検討し、「坂戸鶴ヶ島住販株式会社」、「ダイカンホーム株式会社成増支店」等の地元の業者に対して現地価格の調査を行った上で、極めて妥当な買取価格を呈示していると判断した者を被告に紹介したものであり、仲介業者としての調査義務を果している。

さらに、本件契約の締結された当時は、東京近郊の土地の価格が異常に高騰した時期であり、予想できないような高額で土地を買いあさる業者も多数存在したことから、後に本件土地を一坪あたり金一八〇万円で購入する者が現実に存在したとしても、そのことをもって、本件土地の取引相場価格がその程度であるとか、あるいは原告が仲介人としての義務を尽くさなかったということはできない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  まず、抗弁1の事実のうち、高橋、戸塚及び堀口が本件土地売却の件で被告宅を訪ねたことがあること、並びに同2の事実のうち、原告が被告に対し、本件土地の取引相場価格を一坪当たり金八〇万円であると告げた事は当事者間に争いがない。

2  そこで次に、抗弁1及び2の事実のうち、その余の点を判断する。

(一)  〈証拠〉を総合すれば、被告は殖産住宅に住宅の建築を依頼し、昭和六一年一二月ころにはその引き渡しを受けたが造園工事等がその後も続行されていたこと、被告は、当初、その建築費の一部である金二〇〇〇万円につきローンを組む予定であったが、工事代金の増加等により、右では不足となり、同月に一〇年ローンで三二〇〇万を借り毎月三四万円を支払う形でローン契約を組むことにし、結局、昭和六二年五月二七日に至って初めて、右三二〇〇万円の融資が実行されたが、その間、高橋らは被告に右建築費の支払いを再三催促していたこと、もっとも、被告の昭和六二年の所得額は金四二九五万六三六一円であり、右毎月の返済額は十分支払い可能な金額であったこと、そのほか、右建築費や他の債務の支払いのために被告の所有する土地等の資産を早急に売却しなければならない事情は、本件契約当時存しなかったこと、当初被告には本件土地を売却する意思がなかったにもかかわらず、原告の親会社である殖産住宅の従業員であり、前記建物の建築にも関係していた高橋及び戸塚らは、原告会社池袋支店の従業員である堀口を伴って、昭和六二年一月下旬頃から頻繁に被告方を訪れ、前記建物の建築や残金支払の交渉等をしていた関係上、これを断りにくい被告に対し、本件土地を売るように説得していたこと、右被告方への訪問は事前に約束を取り付けておいたものではないにもかかわらず、その訪問は夕方頃から始まって夜の一〇時ないし深夜一時くらいまでに及ぶものであったこと、被告が応じないうちは次の日にも再度訪れて説得を繰り返すこともあったこと、更に、なかなか売却を承知しない被告に対し、最終段階では、本件土地の相場価格はせいぜい一坪当たり金八〇万円位であるから一坪当たり金九〇万円という条件は値段的にも非常に被告にとって有利なものであると告げて説得したこと、高橋はこれを裏付けるため、もしも同年七月までに一坪当たり金一一〇万円以上の値段がつくようなことがあれば自分が会社を退職して退職金三五〇万円位を被告にさしあげてもよいと告げるなどして被告を強硬に説得し、同年三月一日、遂には、本件土地の坪単価金九〇万円による売却の仲介を被告に承諾させたこと、その翌日、被告が売る気がなくなった旨高橋に告げたが、結局、最終的には、高橋らの説得により、同月五日に、殖産住宅の本社において、本件契約が締結されたこと、被告は右同日まで買主の氏名も知らなかったこと、右のような被告との交渉と並行して、高橋は、殖産住宅の従業員として、昭和六二年二月半ば頃までには、本件土地を購入する予定の江中との間で本件土地上に建設する予定のマンションの建設を請け負う方向で交渉を開始していたこと、本件契約締結の直後に、本件契約が締結された場所と同じ殖産住宅本社において、殖産住宅は江中から預かり金として金一〇〇〇万円を受領していたことがそれぞれ認められる。

(二)  右認定事実によれば、抗弁2の事実を認めることができるのは明らかである。

抗弁1の事実については、右事実を総合すると、本件土地の売却が、被告の発案ないし、被告にとっての資金の必要性のために実行されたものではなく、高橋、戸塚及び堀口の極めて執拗な説得により実現したものであること、殖産住宅の従業員である高橋及び戸塚にとっては、本件土地が訴外江中に売却されるか否かは、第一次的には同土地上のマンション建設請負契約を締結できるか否かという点で、第二次的にはローンの実行の遅れている被告の下に資金が入るという点で重大な関心事であり、右売却の成功のためには、本件土地の単価が高すぎては困ること、そのために高橋は戸塚、堀口らと共に、被告に対し、本件土地を何とか坪単価金八〇万円ないし九〇万円で売却するよう、強引と評しうるほど積極的に働き掛けていたこと、本件土地の売却の仲介においては、殖産住宅の高橋も主導的な役割を果していたことを推認することができる(一部右認定に反するかのような〈証拠〉は信用することができない。)。右のように特別な利害関係を有し、原告の従業員ではない者が仲介に関与していること自体問題であるが、しかしそれ以上に、高橋らが抗弁1に挙げられているような不当な意図を有していたかどうかは、他の事実とも合わせて更に検討する必要がある。

3  抗弁3の事実について判断する。

(一)  不動産の価格に関しては、原告の主張するように確固たる取引相場価格が存在するわけではなく、売主買主双方の要求度合い等に応じて個別具体的に取引価格が形成される面があることは否定できず、また最終的にその価格を決定するのは売主と買主であることも、いうまでもないところである。しかし、同時に、有償で不動産売買を仲介する者は、あらかじめ依頼者により指値を指示されて仲介を委任された場合などにはその内容に差異があろうが、そのような場合を除き、原則として、善良な管理者としての注意義務をもって、取引相場価格の調査をなし、依頼者の利益となるような売買条件の策定に向けて努力する義務を負うものと解するのが相当である。そして、前記2の認定事実からすれば、本件の仲介は原告の方から積極的に勧誘し、価格を提示して説得したのであるから、右の原則的な場合に当たることは明らかである。

(二)  そこで、原告がそのような義務を尽くしていたか否かを検討するに、〈証拠〉によれば、不動産の取引相場価格を調査するには、不動産情報誌等を調べることもあるが、地元の不動産業者に確認することが最良の方法であること、坂戸市には地元の不動産業者が七〇社ほどもあること、本件土地は東武東上線坂戸駅近辺に位置しており、川越駅とは相当に離れていることが認められる。そうすると、本件土地取引相場価格を調査するには坂戸市の不動産業者で調べることが必要であり、不動産情報誌あるいは川越市の不動産業者に確認するのみでは妥当な調査とはいえないと考えられる。

ところで、〈証拠〉によれば、本件土地売買の仲介をするに当たって、堀口らは取引相場価格を調査するために不動産情報誌や新聞の折り込み広告等を参照したことが窺われる。しかしながら、右情報誌として提出されている〈証拠〉を、〈証拠〉に照らして検討すると、右情報誌には本件土地のように、北坂戸駅に近く(約一八〇メートル、徒歩三分)、面積も広く(約九二坪)、南側道路(六メートル)に面した更地の優良物件は見当たらず、右のように駅に近い建物付きの物件(〈証拠〉も、小面積であって価格も安くないことが認められ、右情報誌を基に、本件土地の昭和六二年三月五日当時の取引相場価格が坪単価金八〇万円程度であるなどとの判断ができないことは明らかである。

また、〈証拠〉には、堀口が、訴外鶴ヶ島住販株式会社及び訴外ダイカンホーム株式会社成増支店に、本件土地の価格を問い合わせた結果、坪単価八〇万円以下との判断に達した旨の供述部分があり、〈証拠〉中にも、高橋が川越市の不動産業者で本件土地の調査をし、坪単価金六、七〇万円との結論を得た旨の部分があるが、両部分は他に客観的裏付けを欠き、俄かにこれを信用することができない。また、仮に右調査の事実があったとしても、〈証拠〉によれば、訴外鶴ヶ島住販株式会社は本件契約の買主側の仲介業者と認められる上、川越市での調査は適切とはいえないので、結局右調査をもって調査業務を尽くしたとはいえない。

(三)  さらに、〈証拠〉を総合すれば、勝田は、昭和六二年三月六日に、最寄り駅から徒歩二分の距離に位置するが、間口が三・八メートル位しかなく、本件土地より地形が奥に細長く、隣接道路も狭く(四メートル)、北側道路であって、都市ガスも整備されていない土地を一坪当たり金一三〇万円で売却する仲介をして、売買契約を成立させたこと、また、同人の仲介により、本件土地より遥かに条件の悪い、地形が三角形で北坂戸駅から徒歩一五分の距離にある物件でさえ、昭和六二年三月二七日に一坪当たり金九〇万円で売却されていることがそれぞれ認められている。

また、〈証拠〉を総合すれば、本件契約締結の直後である昭和六二年三月中旬頃、被告は坂戸の不動産業者である訴外マイシティを訪れて本件土地の売却可能価格を尋ねたところ、その時点ですぐに売却すれば一坪当たり金一五〇万円から金一六〇万円、一箇月待てば一坪当たり金一七〇万円から一八〇万円で売れる旨の返答を得たこと、その後、被告は勝田にも本件土地の売却可能価格を問い合わせ、その際に勝田も一坪当たり金一五〇万円から金一六〇万円で売ることができるし金一三〇万円でならば勝田自ら購入してもよい旨の返答をしていたこと、そして結局、本件土地は、本件契約の解約後である昭和六二年六月一七日に、大手不動産業者である訴外オクト株式会社に対し一坪当たり金一八〇万円の割合による代金額で売却されたことがそれぞれ認められる。

もっとも、〈証拠〉によれば、昭和六一年から同六二年頃は東京都周辺の土地価格が非常に高くなった時期であって、本件契約が締結された昭和六二年の初めころには、本件土地が存する坂戸市付近の土地価格も徐々に高くなってきていたこと、それにしてもこの上昇割合は、せいぜい一箇月当たり一割くらいの割合であったことが認められる。

しかしながら、これらの事情を考慮に入れても、勝田の仲介による他土地の売買例は本件契約の締結と同一月内に契約されたものであること、オクト株式会社への売買例は本件土地自体であり、かつ、本件契約の締結から三箇月程度しか経過していないという事実に鑑みれば、もし、原告及び高橋、戸塚(本件の事実経過からすれば、堀口と共に原告の手足として仲介に当たったものと認められる。)が善良な管理者としての注意義務をもって、本件契約締結当時に本件土地の取引相場価格を調査すれば、一坪当たり金八〇万円程度、あるいはそれ以下の額であるとの判断に到達するはずがなく、少なくとも一坪当たり金一二、三〇万円程度、時期や相手を見はからえば、これ以上の価格でも売却できる可能性があるとの判断に達すべきであったものと考えられ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない(〈証拠〉は、本件契約に先立って作成された査定書ではないと認められる上、そこで利用されている売買事例も、本件土地よりはるかに条件が悪く、かつ、昭和六一年五月と一〇月の事例であることを考えると、前記認定を左右するに足りるものとは評価できず、〈証拠〉も右認定を左右しない。)。

(四)  また、原告は、本件土地の価格については、被告が自らの知識、調査等にも基づいて納得した上で、本件契約を締結したものである旨主張し、確かに、被告本人尋問の結果によっても、被告は、本件契約以外にも不動産の取引をした経験を有し、取引関係にある原告以外の不動産会社もあったことが認められ、右事実からすると、被告も、本件契約の締結前に本件土地の取引相場価格を調査することが、ある程度可能であったものということができる。

しかしながら、一般に、依頼者において右のような調査を行うことがある程度できたとしても有償で仲介をしている者の調査義務が減免されるべき理由はない。殊に、本件においては既に認定したとおり、原告側の主導により売買価格が定まっている上、被告側が売却に消極的であって、原告側が強引といえるほど強硬に説得を繰り返して短時日のうちに本件契約を締結させているという経緯からすると、被告の供述のとおり、被告が本件契約の締結後に初めて本件土地の価格の調査を開始したとしても特段不自然ではなく、右供述は信用し得る。

そうすると、いずれにせよ、原告の前記主張は、原告の善管注意義務の不履行を否定するようなものではないというべきである。

(五)  以上によれば、本件土地の仲介にあたって原告のした取引相場価格の調査及び右価格の被告への提示と説得は著しく不相当なものといわざるを得ず、抗弁3の事実を認めることができる。しかも、不動産の売買では、売主にとって、通常、土地価格が最大の関心事であり、本件土地の場合も坪単価が一〇万円違うだけで代金額が一〇〇〇万円近くも変わることを考えると、右のような原告の善管義務の不履行は、単なる付随的義務の不履行ではなく、債務の本旨に従った提供をしていない場合にも等しいといわざるを得ない。

4  抗弁4の事実については、既に認定判断してきたところによれば、3(三)のとおり、本件土地の本件売買契約当時の取引相場価格は金一二、三〇万円、あるいは、それ以上と認められる。

5  抗弁5の事実について判断するに、〈証拠〉によれば、被告は本件契約を解約した上で改めて本件土地を売却することにより、不適正な価格の本件契約による損害を最小限に止めようとし、昭和六二年三月二六日に江中方を訪れて受領済みの手付金一〇〇〇万円及び解約違約金一〇〇〇万円の合計金二〇〇〇万円を提供したが、江中に受領を拒絶されたために、同日右同額を東京法務局八王子支局に供託して、本件契約を解約し、結局、解約違約金一〇〇〇万円の支出を余儀なくされたことが認められる。

6  以上の事実に徴して考えれば、原告が本件契約の仲介をしたのは、被告の利益のためにというのではなく、原告の利益及び原告の親会社である殖産住宅が本件土地売却後に土地の買主との間でマンション建設の請負契約を締結することができるという利益を図ること並びに殖産住宅の被告に対する債権回収を容易にすること、並びに担当従業員達の成績向上が主な目的であったと言うことができ(よって、おおむね抗弁1の事実は認められる。)、そのために本件契約の仲介はむしろ殖産住宅の社員が積極的に説得しており、原告は本件契約に先立って適切な取引相場価格の調査を行わず、売主側にとって不適切な価格である一坪当たり金八〇万円をもって、時価であると告げ、被告を強引に説得して一坪当たり金九〇万円の割合で売却することを決意させ、その結果、被告は利益を得るどころか、相当額の損害を被っているものということができる。このような事情の下において、原告が、被告に対し、本件契約を仲介したことに基づいて手数料を請求するが如きは、当事者間の信義に反する権利の濫用として認められないものと解するのが相当である。

三  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないことが明らかであるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野博之)

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